[side G ロザリー・フローラル]
なにやら良く分からないが戦闘訓練を二千年後の生徒たちと行うらしい。意味不明である。だが、シノ先生に問答無用、といわれてしまったので同室のビアンカと一緒に首を傾げつつ寮へ戻り、部屋を見渡す。
(でも……私にはこれしかないよね)
いつも首から提げている十字のペンダントを外し、そっと手に包む。
隣を見ればビアンカが一番のお気に入り、といっていた恋愛小説を手に取っていた。
個々人それぞれ思い入れのある"モノ"に。魂のカケラを封じるらしい。封じたら意識を失うんだそうだ。そうしたら次に目覚めたら二千年のナナシ空間にいる。仮想戦闘なので、それが終わったらまたこっちの私たちが目覚めるということらしいけどちっとも理解できないのは私の理解力のせいかなぁ。怪我とかはしないそうで、ちょっとだけほっとした。痛いの嫌だもん。
まあ、もはや好きにしてくれ、という感じである。
「行きましょうか」
ビアンカに声を掛けられ。
「うん」
答えて、部屋を出て、体育館へ向かう。みんなが揃っているはずだ。
[side P イプシロン・テレーゼ・エメザイル]
さっく、とファイが空間を切り裂いてナナシの中へみんなで入る。寮らしい建物の一階へ向かうと、そこには同じ年頃の少年少女が固まって立っていた。
きゃいきゃいとしていたが、その中の一人、背丈は低めだが男子だろう、白い頭がこちらを向いた。
「来たぞ」
そういってこちらを示す。
「あなたたちが『二千年後』?」
「ということは君たちが『二千年前』か」
たしかに僕たちの倍ほどは居そうだ。
だいたい制服か体操服を着ている僕らとは違い、個々人でかなり差がある服を着ている。今も残っている『普通』の服装のものもいるが、二千年の間に廃れたのだろうか、かなり『変わった』服が目を引いた。
朱色の髪を首元で二つに結った、リーダー格と思われる少女が、再び話し始める。
「私たちは二千年後で戦闘訓練をすると聞いてきたのだけど、あなたたちと、でいいのかしら?」
「だろうね。僕たちもそのためにここに来たんだし」
「個人戦闘でいいのかしら?シノ先生は細かいことは何も言わなかったのよね。でも全体戦にするとあなたたちの方が圧倒的に人数少ないみたいだし」
「まあそうなるかな。一応全体訓練もやっておくかい?」
「うーん、まあいいけど、圧倒的にそっち不利よ」
「そうだね……じゃあ余裕があったら、そちらに二チームに別れてもらってやろうか。僕らは二回やることになるけど、それでいいかい?」
「みんな、いい?」
彼女が後ろを振り返った。帰ってきた返事はだいたい『いいよ』とか『はい』だった。それを受けて彼女は「いいわよ」といったが、なんか一部返事してない人がいるけど……いいのか?
「こっちもいいか?」
仲間を振り返れば、『当然!』と言ったシグマを筆頭に肯定の返事が全員から返された。
「よし、じゃあそれでいこう」
と話しながら彼女に対してすごく『話しやすさ』を感じていた。そう、まるで自分自身と喋っているみたいな。
「こっち、人数36人だけど、そっち何人かしら?」
「えっと、僕らが16人で」
「?」
「で、ソウセイとリレだから18人。だから僕らがそれぞれ2回戦えばいい。みんないいね」
彼女も「みんないいわね」と言っていて、本当に話しやすい。そう思った。
[side G ミラー・ミラージュ]
個人的なお願いをしてみました。『皆さんの名前を教えていただけませんか』。深い意味はなく、ただ『何かと戦うために頑張るもの』として名前くらいは知りたい、そして私は『絶対記憶』でそれを忘れることはないでしょう、と。そう思って聞いてみました。
思いの外簡単に返事として名前が返ってきたので少し驚きました。
「ああ、いいよ。僕は証明の寮、チームメビウスのリーダー、イプシロン・テレーゼ・エメザイルだよ」
証明の寮……今はない寮名……それとメビウスが何の関係なのかはよくわからないけれど……。エメザイルということはひょっとして『英雄』の子孫かしら。
その後、次々に名前を教えてもらい、お返しにと、こちらも名乗りました。
『二千年後』の彼ら、
シグマ・ヘザルバ、
アルファ=フィー・コーリング、
シータ・ラーフィス、
ツェータ・リッヒ、
ガンマ・テリノカ、
カイ・レドラヌゥフ、
デルタ・ママク、
イータ・エンドレン、
オミクロン・ハーティー、
ミウ・アトライト、
ファイ・シルバー、
クシー・カウナッツ、
オメガ・ロスティオン、
ニュー・スカイティット、
テータ・パトポット、
違う寮だという、聡明の寮ソウセイ・ヤナギ、論理の寮リレ・イースターチップ。
(なるほど、今よりひとつの寮の人数が多いのですね。違う寮からは二人だけ……?それも別の……?まあ何か事情があるのでしょう)
『二千年前』の私たち、
≪天秤の寮≫
エレーミリオーラ・バイオレット、
シルフィリア・ランチェスター、
アンゼリカ・ファーレン、
イシキ・サザミ、
ミレイユ・ザッハトルテ、
トト・カルパニー、
ローリエ・シャロット、
コウ・キルヴェス。
そこで相手が少しざわつきました。もしかしてキルヴェスさんは二千年後も生きているのかしら?ドラゴンってどのくらい生きるのかしら?
そんなことを気にしないストラディスさんが。
バッカーノ・ストラディス、と名乗って自己紹介は続く。
ティロップ・カエス、
ヒカリ・ソラツキ、
アリスト・テネス。
≪空知の寮≫
ゲンヤ・セイコウ、
スカイ・オフロード、
シラタマ、
モノリス・ラテルニア、
バジル、
ティーク・リスカー、
ミスト、
サーシャ・ベネトナーシュ、
オクトニア・オムニダ、
リヴァ・サラサイト、
リームス・フェイラン、
コンタドール・リカ。
≪調律の寮≫
ジクロス・クラロイド、
ヴァンツァー・アスフォデル、
ウル・ヨクト、
ルーク・ユリアス、
トリニクス・リアマイト、
ペンタス・ウテミレイ、
ロザリー・フローラル、
ビアンカ・ピュアスノー、
カーシャル・フロン、
テトラヴァ・テルノライ、
ラヴィエータ・リコリス・ハーブ。
そして最後に。
「ミラー・ミラージュと申します。調律の寮のリーダーを務めさせていただいています。よろしくお願いいたします」
[side P ソウセイ・ヤナギ]
この間の対人試験のようにやると話が付いたらしい。誰が相手だろうと今度も絶対負けない。そんな気概だけは抱いた。
二千年前の彼らがぱたぱたとそこらへんを探して(彼らにとってはここは偽ではあるがホームグラウンドなのだ)巾着袋と紙切れを用意した。紙にはそれぞれ自分の名を書いて巾着にいれた。簡単に言ってくじ引きを作ったのだ。引くところは見ないことにするといって彼らは外へと出ていった。
玄関の入口から出た先に向こうの人数に合わせて部屋が用意されているらしい。部屋のドアに名前が書いてあるそうだ。
はい、ソウセイどーぞー。と渡された巾着から、二回戦うことになっているので二枚紙切れをつかみ出して巾着を隣に渡す。引いた紙切れに書いてある名前は――≪サーシャ・ベネトナーシュ≫≪ビアンカ・ピュアスノー≫
先程の自己紹介に照らし合わせると、両方とも女子のようだ。女子相手だろうが本気でやるのであまりそれは関係ないが。今度だって絶対勝つと決めている。
ただこっそりと、大事な婚約者のイチヨと同じ姓を持つ『ゲンヤ・セイコウ』とやらと当たらなくてよかったなと思ったが。先祖だろうか。さっきの少しの間遠くから見ていただけだがなんとなくあれが先祖だとはちょっと思いたくない。ただ姓が一緒なだけだろう。何年の隔たりがあるというのだ。二千年だぞ。ああそれと。
――S格魔法――。この時代の生徒は皆それを習っている。それが使えない自分はちょっと不利だ。
不利だけど。
負けてたまるか。