[side P シグマ・ヘザルバ]

「手紙が届いた」

 冬休みが終わり、再会した俺らにイプシロンが重々しく言った。
 俺はその時、夕食のカレーライスを食べながら、アルファ=フィーと首都で流れている軽い馬鹿げた噂話をしていたが、そのイプシロンの声はよく響いた。
「手紙?」だの「誰からー?」だのと声が飛び交う。
「誰からかは分からない」
 イプシロンが言う。
「分からない、が気が付いたら側に在ったんだ。これは、正直信じがたいんだが……」
「どういうことだよ」「なになにー?」
 誰かがたずねる。
「ナナシという空間が在るのをもう知っているだろう。ファイが最初に出入りしたあそこだ。あの、エインシャントドラゴンが生息していた、寮のようなものがある空間。そこに」
 皆が集中して聞く中、静かに、しかし力強く言う。

子どもたちの幻想に会いに行くぞ

「……はい?」「子どもたちの幻想とかファイかよ」「なにそれ?」
 はてなマークに支配される食堂で。
「なるほど」
 ファイだけが納得していた。



 イプシロンが手紙の文章を読みあげる。要するにこういうことらしい。
 ナナシという空間に入り、戦闘訓練をすると。そういうことだそうだ。

 ただその相手が。
 二千年前の魔法学校の生徒、らしいのだ。



(信じがたい、怪しすぎるだろ)
 俺はそう思っていた。
 しかしナナシが存在するのは事実で。
(どういうことなんだ)
 はてなでいっぱいだ。横を見ればアルファ=フィーが「ぷるぷるちゃんーーー……」などと呟きながらはてなを飛ばしていた。
「見てくれ」
 差し出されたのは封筒の裏、差出人の名前のところだった。

シノ・シャウティ

より怪しさが増してるって!
「でもさ、シノ・シャウティって有名だし、偽装とかそんなことないの?悪戯だったりとかさ」
「その下もちゃんと見てくれ。そっちの方が僕としてははるかに重要なんだ」
(下?……何か書いてあるな)

……シノ先生の名前だけじゃ不安だから、念の為に私の名前も記しておくことにしました。先生には内緒です。エメザイルの血が途絶えていないことを祈って
(この後、名前っぽいな。汚れてておまけにかすれてる。読みづらいけど……)
……リオ……・……イ……ト・……ザイル

「これ、エメザイルって書いてあるよな」
「見にくくなってるけど、最後はエメザイルで締めてあるよね」
「ひょっとしてザルベリス・オークランド・エメザイル?」
「いや、シノ『先生』ってところからして始祖エメザイルではないと思う。けど、ええっと、二学期新聞班の人たちには説明したけど、」

 (途中不明点あり故、さくっと省略。後々付け加えます)

「とにかく、内容が内容だからね。シリアスに。慎重にだ」
 シータが手を叩き、静まったところでイプシロンが言う。
「対人試験、この間やっただろう?あんな感じで戦うらしいんだ。もちろん疑似空間でだけど。ただ……彼らもS格魔法を使ってくる」
 ざわ。空気が揺らぐ。
「だけど心配は要らない。僕らだって今まで培ってきたものがある。それに、お互いの戦闘力の向上だけが目的みたいだからね。交流戦みたいなものだと思って、気楽に、だが気は抜かずに、 ベストを尽くしてくれ!」
「はい!」「応っ!」「分かりました!」
 フィーが。
「がんばろーねっ、シグマ!」
 なんて笑顔で言ってきて。
「あったりまえだろ!」
 返事をした。





[side P アルファ=フィー・コーリング]

「向こうは三十六人……か」
 イプシロンが呟いた。
「多いよねー」
 ぼくはそう返す。
「そうだね、僕らは二回戦うことになるかな。いや、それでも少ないね」
 イプシロンがそこまで言った時だった。

「失礼する」
 振り向くと、そこには聡明の寮リーダー、ソウセイが立っていた。
「何しにきたんだい?今ちょっと立て込んでいてね。悪いけどまたあとに――」
「私のもとに手紙がやってきている。内容が気になるものだったので念のため来た。これだ」
 ソウセイがそう言って紙切れを示す。
 イプシロンと二人で覗き込んで。
「これって」
「僕のところに来たものと同じだね」
「シノ・シャウティからだとは信じがたいのだが……。本当に彼の者からのものだったら、放っておいていいものではないからな」
「うーん」
「ねえ。イプシロン、こういっちゃなんだけど、ソウセイを巻き込むの?」
「ああ、ええとね」
「『あれ』のためなのだろう?ならば私にも戦わせてくれ」
 ソウセイが言う。
「手紙が指し示すとおりにすべきー、なのかな?」
 ぼくはイプシロンにたずねる。
「そうだろうね。おそらく、だけれども」
 曖昧に返事を返すイプシロン。
「一緒に戦う、でいいんじゃないかな。とにかく人数が足りなくて困っていたんだ」
「そうか?ならば増援として適任がいる。しばし待て」

 なぜかソウセイの指示に従うぼくたちのもとに彼はひとりの背が高い男子生徒を引っ張ってきた。
「ちょっ、なんだよ、いきなり!」
「えええっ!?」
 文句を言いつつついてきているのは、多分髪の長さは学校一な論理の寮、副リーダーだった。当然ソウセイとは当然違う寮の生徒だ。人選が謎すぎる。電波ちゃんも驚愕です。びしびし。
「なんでリレが来たんだ!?」
「問答無用で連れてこられた俺にむかってその発言はひどくないか、イプシロン!?」
「エメザイル、説明は頼んだ」
「いやいや。本気で聞くよ、ソウセイ。なんでここにきてリレ?」
近くにいたからだが
「俺、そんな理由で訳もわからないまま連れてこられた上ノット歓迎!?」
じゃあ付け加える。近くにいて一番戦闘員として使えそうだったからだ
「もはや物扱い!」
 と、激しく苦情を申し立てるも、奴隷とまであだ名される彼は、結局イプシロンから軽い説明を受けた。受けた上でまた文句を言った。
「せっかくテスト終わったのにまた仮想戦闘しないといけないのかよ。しかも人数合わせで!?」
 言ったけど、こちらに従った。ナイス奴隷根性。
「これで十八人になったな。一人につき二人受け持てばちょうどだ」
「そうか。ならよかった」
「いや、よくはない!」
「もう諦めるのがいいと思うよ、リレ」



つぎー