ささやかな追記は、沢山の愛に溢れている。



 ―― 三学年目 ――


[楽器の名前]


 突然ですが、僕はリラのことが、ずっとずっと前から好きです。
 基本学校の四年次に僕が転入したクラスに小さくて、すごく可愛い女の子がいました。それがリラです。
 僕は、クラスになかなか馴染むことができませんでした。理由は火を見るより明らかで、僕の風貌が一風変わっていたからです。首都の基本学校に通う生徒の髪の色や服装は僕と大きく違っていたから、きっと、僕も、相手も気後れしてしまったのではないかと思います。
 リラも、周りと大きく違うという点で、僕と同じでしたが、彼女の人柄は、人を惹きつけるものでした。
 転入して、初めて話しかけてくれたのが、リラでした。僕はそのときからリラを意識するようになって、やがて好きだと思うようになったんです。
 そのうちに、リラが、とても近所に住んでいることを知りました。
 それには感謝の一言しかありません。おかげで、今では、学校と家の行き帰りを一緒にしています。リラは体が弱いですから、一人旅を嫌った彼女の親に頼まれたこともありますし、また、頼まれなくても一緒に行き帰りをすることは、僕にとって幸せな時間です。

 僕は、告白をする勇気がありませんでした。
 そんな自分が嫌になることもありますが、今の関係が幸せすぎて、壊したくなかったからです。
 今のままでいい。今のままで。多くは望みません。ずっとそう思っていました。

 だけど、この間の誘拐犯の退治をしたときに思いました。
 殴られて気を失ったリラを、屋根の上から見ていたとき、すごく怖くなりました。
 気がついたんです。今はいつまでも続かないんだって。未来ってやつが、どんどん押し寄せてくるって。

 僕は決めました。好きだって伝えようって。それで今の心地よい関係が壊れるかもしれないけど、もし、リラが居なくなった未来ってやつが来たとき、言わなかったことを絶対に後悔する。僕は、その後悔はしたくない。

 今日はなんでもない日。なんなら何日かも、何の曜日かも忘れそうな日。
 リラに告白することにした日。
 二人で、出かけた。よくあることなので、大したことじゃない出来事。
 特に場所は決めない。

 ……もし、駄目でも、落ち込んだことを忘れられるように。

「今日は、いっぱい本買えてよかったな。ありがとう、持ってくれて」
「ううん、全然大変じゃないから、気にしないで」
「ハーディーガーディーは、いつも荷物持ってくれる係りだね。家に帰る時とか」
「うん」
「いつからだっけ。一緒に歩くようになったのって」
「……覚えてない」
「私も」

 言わなきゃ。言わなきゃ。学校についちゃうから。今日言うって決めたんだ。

「ねえ、リラ」
「なに?」
「僕、リラが好き」

 言っちゃったーっ!

「ハーディーガーディーって、楽器の名前なんだよね」
「あ、うん。そう」
「リラも」
「え?」
「リラも楽器。お揃い」
「そう……」
「私もね。好き」
「な、えっ?」

 今なんて言いました!?

「ハーディーガーディー。大好きです」
「ほんとに?」
「嬉しいな。私、ハーディーガーディーは、そんなこと思ってないんだと思ってた」
「僕、僕も、リラは僕のことは別になんとも思ってないのかなって」
「嬉しい。私、ハーディーガーディーが好きだって言えたよ」
「うん」
「私たち、恋人になったんだ」
「うん」
「今度のお祭り、行く?」
「うん。一緒に」
「一緒に行こうね」

 はっ!今日、日記の日だ!……何事もなかった感じで書きます……この出来事は嬉しいけど、少し恥ずかしい。





 五月 二日 マリキュールの休日

 記録者 Drehleier



 今日はリラと本を買いに行きました。

 新刊が結構出ていました。

 

(ここから書いたのはリラ)

 なんで書かなかったの、ハーディーガーディー!

 大事な思い出の日なのにーっ



 ハーディーガーディーが私に告白してくれたのはこの日!

 びっくり。でも忘れないように書いときます。



(名前いらないよね!)おめでとう! おめでとー 遂に!



(戻ってきてハーディーガーディーです)

 えええっ!ちょっと!知らない間に書きたされてる!

 恥ずかしいな。でもありがとう。





つぎー