これは、物語に登場しない少女が綴った、短いけれど、たくさんの思いが詰まった手紙。


[大好きだったあなたへ]


 私があなたに出会ったのは、基本学校の後期課程に入った時でした。
 私たちが住む港町には基本学校はひとつでしたね。
 けれど結構大きく子供の数も多かったので、前期過程の時も同じ学校に通っていたはずで、だから本当は入学式で会っているはずなんですけど、同じクラスでなくて、記憶にないのが残念です。
 後期課程は進学を希望する上級学校別にコースが分かれているんですよね。
 難関といわれる魔法使い養成学校を目指す生徒はそう多くはなかったことを覚えています。私はその時初めてあなたを見たはずだと思うのです。
 『思うのです』というのも、私は、はじめてのテストの結果を見るまで、実はあなたの名前を知らなかったのです。
 はじめてのテスト、私の校内順位は二番でした。当時、私は頭がいいと思っていたので、この結果にはいたく不満を覚えたの。
 一番は誰なのだろうと思うと居ても立ってもいられなくて、すぐに先生に訊ねたのです。先生は『ガジュマロ』という名前を教えてくれました。その生徒は私とは違う、ふたつあるうちのもうひとつのクラスにいました。

 ドアからそのクラスを伺っていると、前期過程の時に同じクラスになった女の子がどうかしたのかと声をかけてきたので、少し躊躇したのですが、『ガジュマロ』という子はどこかと訊ねました。その女の子が指した先にいたのは、背の高い、この地方では珍しい茶色の髪の、あなたでした。
 女の子に礼を言うと私は自分のクラスへと戻りました。脳裏に焼き付いたあなたは、一人でなにか機械仕掛けのおもちゃのようなものを解体していました。友達がいないのかと思えば、次に見かけたときは何人かでボール遊びなどしていました。
 あなたに話しかけたいと想いをつのらせながら機会はなく、あなたを眺め続けながらあっという間に一年が経ちました。そして不意にあなたに話しかけられたのです。

 それは図書室でのことでした。私はその年、図書委員をやっていました。蔵書整理をしているとき、不意にあなたが現れたので私は吃驚したものです。
 あなたは覚えていないと思います。その時あなたは私に本の場所を訊ねただけでしたから。けれど、私はきっと一生その瞬間を忘れないでしょう。あなたが私の方を叩いたその手の感触と大きさ、少し低い落ち着いた声、茶色の瞳や、私がどれだけどきどきしたのか、そのなにもかもを。

 それからまた一年が過ぎて、最高学年になって、私は焦りを覚えました。それは成績のことです。私は校内順位ではいつも大抵二番でしたが、全国順位はいつも三桁だったので。あなたの全国順位は悪くても五十番を下回ることはなかったでしょう。魔法使い養成学校の定員は百三十人だもの。このままでは、あなたと同じ上級学校に進めないかもしれないと思ったのです。
 私はあなたに追いつき、同じ学校に進学するため、がむしゃらに勉強をしました。おかげでなんとか、あなたと進学することができました。同じ基本学校からの合格者は、私とあなたのふたりでしたね。

 卒業式の日、式が始まる前に、あなたが私に声をかけてくれたのを覚えていますか。
 それで私――ああ、あなたとこの先も頑張っていけるのねって、不意にじんとしたのです。想いが報われた気がしました。
 それで、式の間、内容をそっちのけでずっとあなたのことを考えていたの。そうして私は思ったんです。あなたのことが大好きだと。
 ねえ、だって三年間私の視線の先には、ずっとあなたがいたのですから。

 だから、家路につこうとするあなたを呼び止めたのです。あなたがどんなに好きかをあなたに伝えたくて。
 あなたが了承の返事をくれたとき、私がどれだけ嬉しかったか。あなたと過ごした三年間がどれだけ喜びに満ちていたか。ずっと感謝を言いたかったのです。

 ありがとう。
 私はすごく幸せな時を過ごせました。
 あなたの彼女でいられて本当に良かったです。
 あなたが幸せになれますよう――。
 私は心から祈ります。

 本当に、本当にありがとう。

Dear、ガジュマロ

From、――――


……END.