日数未定。それが実習の辛いところだ。
―― 二学年目 ――
[題名未定・3]
夜になっても、一向に涼しくなる気配のない南極大陸です。呪符のおかげで、かなり涼しくなっているはずなのですが……暑いことにはかわりはありません。
実習の夜は話し合いが行われるのが基本です。
モニカ作のご飯を食べ終わったら、全員集まって車座になります。主に探索班が結果を報告します。内容をまとめて紙に書くのは大体においてハルの仕事です。彼が一番得意なんです。机がないので、少し書きづらそうにしていますが、まあ、慣れていることでしょう。
「一箇所目ですが、建物内に設置された仕掛けを解いていって、水が流れるようにするという、頭脳系ですね。
二箇所目は、ハルカを唱えるようにとありました。能力系です。
三箇所目ですが、異空間でのバトルです。
今回、かなり軽目に設定してあるようですね。暑いので、明日には終わらせて帰りましょう」
「てことは明日、四班なのか?」
「ええ。セルゲイの言う通り、四班で行きたいと思っています」
うわ。明日かなり強行ですね。
「振り分けですが……実はまだ考えている途中なのです。ハルカについて、私は詳しくないので、うまくゆきません。ハルカについて詳しくわかる方は教えていただけますか?」
ハルカ?なんでしょう……知りませんね。
「あ、おれ分かると思うんだけど、いいか?」
「フランク、召喚系統ですか?」
「そうだね。多分これ、おれしか習ってないぞ」
「フランクの記憶力が試されてるんだよ」
「おい、セントエルモ。プレッシャーかけんな」
不安です。フランクは記憶力が悪い方ですので。
「召喚ならレイチェルだってハイレベルとってるんじゃないのー?」
「ええ。私が忘れているのでしょうか?」
「先天属性のあれこれのせいで、レイチェルは向いてないから教わってないんだと思うんだよ。空のお方との契約だからね」
「なるほど。となると、かなり高位の召喚獣ですね?」
「まあ、そうなるかな。しかもこれ、ひとりじゃできないっておまけ付きなんだ。えーっと、契約交わすときに一緒にやったのって誰だったっけ?」
「あたしじゃないかと思うなあ。なんかそんなのやったことあるかも」
「僕もそんな気がするけど……確か三人でやった」
「そう、なんかいきなりクラーク先生に呼び出されてびっくりした」
「おれもそんな気がしてきた。えっと、多分モニカは月属性で呼んで、モニカが補助魔法と属性の橋渡しが同時行使できなかったから、ハーディーも呼んでやった。思い出した。すごい大変だった。えー、またやるの。あれはもうやりたくないんだけど、おれ」
「そうですか。では、また三人でお願いしますね」
「話聞いてたか、レイチェル?」
「私は出来ませんよ。ハルカとはそもそも、どんな召喚獣なのかも知りません。ハルとライラは出来ますか?」
「そんな召喚獣は俺だって知らない」「うーん、私も出来ないな」
召喚魔法ハイレベルの授業を専攻しているのは以上の四人なんです。
「とのことです。フランク、やっていただけますね」
「はーい……おれ頑張るー」
「ふむ……組み上がってきました。あ、やっぱりこっちのほうがいいかしら。えーと
一箇所目の班。えー、建物班と呼ぶことにします。リーダーはハル。サクラ・アレクサンドラ・ガジュマロ
二箇所目。ハルカ班と呼ぶわね。リーダーはモニカ。ハーディーガーディー・フランク・イツキ
三箇所目。バトル班と呼びます。リーダーは私が勤めます。ライラ・セルゲイ・フレードリク・リラ
テント班、アリスとセントエルモ。
で、大丈夫ですか?正直考えながらやっぱり二日に分けようかと思ったのですが」
「道中とかきついかもね」
アレクサンドラが言いますが、たしかにそれはそうでしょう。一班の人数が少ないですね。
「回復をする人を基本的に決めていけば、行けるかと考えたのですが無理でしょうか」
「建物は誰が回復するんだ?」
「アレクサンドラの魔法薬で考えました」
「それはちょっと荷が重いよ」
「分かりました。では、リラを建物班へ移動で大丈夫ですか?」
「ハルカ班も、結構厳しくないか?」
「バトル班もリラが居なくなる、となると、きついんじゃないかと思うよ」
「……えーと……それでしたら……あ、駄目ですね……。――すみません、一旦全て白紙にしてください。やはり、二日に分けることにします」
「ええっ……せっかく書いたのに……」
ドンマイです、ハル。
「ところで暑いですね。呪符は効果続いていますか?」
「あー」「あっ」
「切れてたー」
「ごめん、今貼り直すね」
「これー?」
「うん。えっと、よし」
「貼れたよー」「ごめんね」
あー、これです。涼しい。
ところで、レイチェルらしからぬ配分ミスはまさか暑さで?
……まさかですよね。
「ふう。あ、呪符はまだ数ありますよね」
「いっぱい作ったし後二日くらいならがんがん使っても大丈夫だよー」
一日かけて作り続けましたからね。
「安心しました。二日に分けましょう。思えばテントにアリスとセントエルモだけ残して出るなんて愚策過ぎます。
バトルは空間広めだったので、明後日に回しましょう。明日は建物とハルカですね。午前午後で分けましょうか。どちらもそう時間がかかるものではないですから。
では、明日午前、建物班リーダーは私が務めます。ライラ・セルゲイ・アレクサンドラ・フレードリク・ガジュマロ・イツキ。基本として防御魔法は私が、回復魔法はライラが唱えます。臨機応変で変わる可能性は十分ありますのでお願いします。
テントは残りで、リーダーはハル。アリス・モニカ・ハーディーガーディー・サクラ・セントエルモ・リラ・フランク。守備を怠らずに。回復は出来るだけハーディーガーディーか魔法薬でお願いします。
午後についても指名しておきますが、一応、です。変わることも考えておいてください。
ハルカ班に決定しているのが、モニカ・ハーディーガーディー・フランクです。三人に何かあったら計画は立て直しです。
ハルカ班は今の時点での仮決定です。メンバーは、私がリーダーを努めるのは午前と変わりません。ハル・セルゲイ・モニカ・ハーディーガーディー・サクラ・フランク・ガジュマロ。セルゲイとガジュマロは午前に引き続きとなりますが、大丈夫ですか?」
「多分オッケー。レイチェルが一番心配だろ」「俺は平気だと思う」
「私は……まあ、召喚魔法が見たくてついこちらに割り振ってしまいました。防御人員も欠けていますので。
残り、ライラ・アリス・アレクサンドラ・フレードリク・セントエルモ・リラ・イツキがテント班の予定です。リーダーはライラに委任します。
行動の都合上、明日は昼にも一度集まって話し合いを行います。午前の行程が遅れてしまった場合は連絡を入れます。どうするかはその時の状況を見て、考えます。
以上で大丈夫ですか?――……ハル、書けましたか?」
「あ、うん、一応」
「では、いつも通り、男子寝室前のカーテンに貼り付けておいてください」
「ん」
男子寝室前と言っても、テントの一部にカーテンを張ってあるだけですが。ちなみにカーテンはもうひとつあります。そちらは女子用。実習のテント、結構大きいんですよ。まあ、雑魚寝ではありますけれど。雑魚寝はあまり好きではないのですが、慣れました。
「それでは、明日の朝食は午前テント班の中から誰かお願いします」
「あ、あたし作るよ」「サクラも手伝うねー」
「お願いします。では、連絡は以上です」
建物系のチェックポイントがあることは結構稀です。
理由は単純で、作るのが大変だからですね。
周囲に気を配りつつ、建物があるという場所を目指して、歩きます。
レイチェルを中心に呪符が発動しているので、暑さはあまり。レイチェルが中心になる理由としては、防御魔法の要だからですね。
「あー、見えてきた、見えてきた」
「え、ほんとに?」
「もうですか?」
「結構近いんだね」
どれどれ……、うわ、大きいですね。大きいというか広い、というか。
現地にあったのを、許可を取って綺麗にして利用しているんでしょうね。
あの規模で組み立ては無理でしょう。
「なんか……大きいよね」
「ええ。でも昨日中を覗いた限りではそんなに難易度の高いものはなかったので、平気でしょう」
「レイチェルが難しくないって言ってもリアリティがないだろ」
確かにそうですね。
さて。到着です。なにからどうすればいいんですかね。
「入口にトラップがありました。昨日のうちにガジュマロが解除済みですので普通に中に入って平気です。
左右と正面、三方に鍵がかかった部屋があります。ところで振り返ってください。入ってきたドアの上に札があります。多分どこかの部屋の鍵です。イツキ、あれは触っても平気ですか?」
「えっと、ちょっと待って……」
なにか必要なものがあるのか、イツキは荷物を探っています。
「これこれ、手袋しないと危ないよ」
黒というか沈んだ色合いの手袋ですね。
「届きますか、イツキ?」
「ほっ!……とりゃっ!」
手を伸ばしてぴょんぴょんと跳ねていますね。なんとなく微笑ましい光景に映ります。
「うーん、だめだ。届かない。誰か肩車するから取ってもらえないかな」
イツキは背が高いですし、それで届かないとなったら確かに二人がかりしかないでしょうね。
「では、ライラに取っていただけますか?この場にいる呪術ハイレベル専攻はイツキとライラだけですので」
「あ、うん。イツキくん、手袋借りていい?」
「ちょっと大きいと思うけど、防呪はしっかりしてるってサクラが言ってたから安心して使って。はい」
「ありがとう。えっと」
「あ、私の肩に乗ってください。こんなことしか役に立たないですからね」
「うん、ごめん、乗るね」
ライラは靴をすぽんと脱いでしゃがんだ私の肩に乗ります。重さは感じないのですが、ゆっくり立ち上がることにしています。以前普通に立ち上がったら上にのせた方が落っこちてしまったことがあるので、念のためという感じです。
ワンピースが基本服装のライラもさすがに今日はズボンを履いています。……さすがにスカートの女子を乗せはしませんよ。
なにやらぱちぱちと音がしているのがなんとなく不安感を煽るのですが、上を向くわけにもいきませんし、大丈夫でしょうか。
「ライラ、そこは右から!」
「あ、そうだっ。ありがとうイツキくん」
え?失敗とかしないですよね?今ライラと触れているので、呪いの反動とかきたら私も諸共なのでやめていただきたい。頑張ってくださいライラ。私のためにも本当に!
「えっと、取れたよ」
「じゃあ、下ろしますね」
そっと床にライラを下ろす。
「ライラ、札見せてもらえるか?」
「うん、あ、でもイツキくんの手袋は私がしてるから」
「そうだった!危ない」
「安全性確認はやっておくね。鍵は全然問題なく触って大丈夫だよ。えっと、レイチェルに渡していいかな」
「受け取るわ」
見た目は普通の鍵ですね。呪符の裏にあったというと、なんとなくおどろおどろしい印象がありましたけど、本当になんの変哲もないです。
「おそらく、三方のドアのいずれかの鍵になっているのでしょう。ガジュマロ、調べてもらえますか?
ライラ、その札、安全ですか?」
「うん、解呪したから平気だと思う」
「再利用できそうですか?」
「え?あ、うん、多分だけど……。何に使うの?」
「使いはしません。先生が、現地で調達できたものは出来るだけ持って帰ってきてくれと仰っていましたから、持って帰ろうかと思いまして」
ええっ。けちくさいにも程がありませんか!?その上、生徒に必要物資を調達させる気満々じゃないですか。なんなんですかもう、あの先生たち。自分で取りにくればいいじゃないですか。もしくは買えば。
「レイチェル、いいか?」
「はい、ガジュマロ。どこの鍵でしたか?」
「正面だと思うが、回してみないと正確には分からん」
「正面ですか。見せてもらってもいいですか?……確かに、合っていそうですね。形が一致しています。では、正面の鍵を解錠してください」
がしょん、と見た目の割に重たい音がしました。ドアは、シャッターのような開け方をする変わった形です。通る時に持ち上げている必要があるので、とりあえず、支えておきました。力仕事は探してでもやらないと私の存在価値がガタ落ちですからね。
最後に通り抜けてドアを閉めたらどすんと重たい音が響きました。多分驚いてだと思いますが、ライラが少しびくっとしました。これはすまないことをしてしまいましたね。まさかあんな音がするとは、私も思いませんでした。もしかしたら一人で開けるドアではないのかもしれませんね。
入ってすぐ左手には、古びた壁に似つかわしくない、ぴかぴかした釣瓶のような仕組みの足場と、上った先の壁に貼り付けられたボタンのようなものがあります。床は、ぼこぼこと抜けていて、奥へ進むことが出来なくなっています。
釣瓶の片方には人が乗って上まで上れるような足場があり、反対はただ、紐があるのみです。ガジュマロはトラップの有無を調べて回っています。私は彼の確認を受けて紐を引っ張ってみました。天井近くでからから音がして、足場が上がることが分かりました。
「それ、乗るの面白そうだな」
「セルゲイ重いでしょう」
「大丈夫、フレードリクなら上げてくれるって!」
「確かに上がりますけど、セルゲイが上に行ってあのボタンを操作するんですか?無理でしょう」
「そうですね。申し訳ないですが、思いのほか時間が押しているので、いつかの機会に回してもらって良いですか?」
「いつかっていつか本当に来るんだろうな?」
「レイチェル、時間、ぎりぎりなら、テントに連絡いれておこうか?」
「いえ、多分時間内には終わると思うので、今のところいいです。心遣いありがとう、イツキ。ガジュマロを上げてもらえますか?トラップの確認を彼には頼みたいですから。私は自分で飛んで見に行きます」
≪空へ≫
レイチェルの飛行魔法発動用呪文はとても短いです。
「でも俺は重いぞ」
ガジュマロは十五人の内で最も背が高いですし、体格もしっかりしているほうですが、だからどうしたというのです。
「ガジュマロ程度で重いなんて言っていたら、このチームの力仕事担当は務まりませんよ。さ、乗ってください。揺れるかもしれないので、手すりにしっかり掴まってくださいね。落ちても知りませんよ」
「落とさないでくれると助かる」
「気をつけます。では、上げますよ」
紐は引っ張りやすく、足場はガジュマロを乗せて、するすると上がっていく。天井近くまで上がったところで、止めてみます。
「この辺で大丈夫ですか?」
「もう少し上で頼む」
「このくらいですか?」
「ああ」
上ではレイチェルとガジュマロが、ああだこうだと話し合っています。この足場はおそらく、後から先生が設置したのでしょうね。ガジュマロが飛行魔法が使えないことに配慮してあるに違いありません。
ふと、レイチェルが部屋の奥側へ行きました。おやと思えば、行き止まりの壁の横に、レバーがあります。レイチェルが少しレバーを下げてみました。がこ、と重たそうな音が響きますが、特に何も起こりません。しばらくレイチェルはレバーを下げていましたが、やがて戻ってきました。ところで、ガジュマロは下ろしたほうがいいのでしょうか?
「セルゲイ、来てもらえますか?レバーが重いのです」
「おっけー」
≪空飛びたい。マジでお願い≫
セルゲイの飛行魔法は長めですね。まあ、私飛べないのでなんとも言えませんけど。
セルゲイがレバーを下に引っ張ると、さっきよりも大きな音がして、奥の壁の一部が上がって、開きました。遠いので細かいところがよく見えませんが、レイチェルが奥に入らないということは何かあるのでしょう。
「ガジュマロ、ちょっとさっき言ったボタンを押してみてもらえますか?」
「分かった」
「きゃっ」
うわ、すごいですね。初めて見る仕掛けです。床が動きました。ライラがちょうどその床に乗っていたようで、驚いて座り込んでいます。
「うわあ。すごいね。床が動いたよ」
「へー。仕組みが知りたいね」
「え、嘘。見に行っていい?」
セルゲイがレバーから手を離すと、上がった壁が落ちてきました。
「――っ。ふう、びっくりしました。セルゲイ、手を離さないでくださいね」
レイチェルは壁のすぐそばにいたので、非常に驚いたようですね。力仕事のレバー作業は、しかし私が変わってやることはレバーが高所にある以上不可能なので、頑張ってください、セルゲイ。と心の中でさらっと応援しておきます。
「一旦床を戻すが、いいか?」
「ええ、ガジュマロ、お願いします」
がこん、と床とその上のライラが戻ってきました。あと、レイチェルも戻ってきました。
「フレードリク、足場を下ろしてもらえますか?」
「了解です。ガジュマロ下ろしますよ。手すりにちゃんと捕まっていてくださいね」
「安全に頼む」
「こういうのって下ろすときの方が難しいんですよ」
勢いが付きすぎないようにゆっくり足場を下ろします。本当に下ろすときは神経使います。
「では、移動する床に乗ってください。多分奥まで動きます」
レイチェルに指示されて、ライラの周りへ移動します。レイチェルはというと、ボタンの方へ飛んでいきました。
「動かします」
がこ、ごん、ごとん、と結構荒っぽく床は奥へ進んでいきます。
「ひえ」「うわあ」「きゃあ」
上記のように、乗り心地は最悪です。立っていることは不可能に近い感じです。
「レイチェル!ゆっくりお願い!」
「速い!移動が速いから!」
「なんなら私飛んで移動するわよ!?」
絶不評です。
「すみません。ついつい、ぽんぽん押してしまいました」
がこん、止まってから、がこん。
ゆったりですね。ふう。飛べないとこういうとき不便なんですよね。
「俺としては早くしてほしいんだけど……レバー重いし」
「すみません、私飛べませんので頑張ってくださいね!」
思えばこの班分け、男子で飛べるのセルゲイだけですね。つまり代わりはいない、と。
そうこうして、壁際まで床は移動しました。空いているところにぴったりと付いています。入口のレイチェルからガジュマロにトラップの有無の検査依頼がなされます。
私たちのチームは十五人もいるくせにトラップ解除に長けているのはガジュマロだけなのです。わりと長所が突出しているタイプが多い年代とでも言えば聞こえはいいでしょうかね?
「俺から見た限りでは平気そうだぞ」
「呪い系もない感じ!」
ガジュマロと、イツキも返事を返します。開いた壁より奥は床が空いてることもなく、普通の部屋という感じです。ふと思い立って、ドアになっている壁を手を伸ばして支えてみました。
「セルゲイ、少しずつレバーにかけている力を緩めてもらえますか?」
「ん?」
「支えてみようかと思いまして」
「あ、おう。いくぞ?」
「いつでもどうぞ」
しかし……なんというか、こうしていてもあまり重さを感じないんですよ、人より力があるせいでしょうけどね。
「フレードリク!」
「はい、なんですか?」
「レバーから手放しても大丈夫そうか?今、ほとんど力かけてない状態なんだけど」
「平気そうです。一応そっと放してもらえますか?」
「んじゃ、放すぞ」
「平気です……まだ大丈夫です。いけそうですね」
「もう放した。平気だな?あー、重かった」
「じゃあ、ここは私が支えているので中へどうぞ」
「助かった」
「いえいえ」
「あら?フレードリクが支えられたのですね」
入口からレイチェルが移動してきました。
「ええ、全然問題なく支えていられますので、安心して中で作業していてください」
しばらくして、ぽうっと明かりがつきました。魔法ではないですね。アレクサンドラが点けて回っているようです。どうやら規則性があるようで、レイチェルが逐一指示をだしていますが、どんな規則なのかはさっぱりですが。
がしゃらら、と後ろ、入口側で音がしましたので、振り返ると、入口横に鎖が下りていました。中のみんなはよくわかっていないようだったので、報告します。
ひゅっとアレクサンドラが飛び出していきました。文字通り、飛んでいます。
「あ、鍵だね。鎖に鍵がくっついてる」
報告を受けてみんな部屋から出ました。
「壁閉めてもいいですか?」
「ええ。では、床を入口に戻します」
レイチェルが言い放つと、飛行魔法が使えるライラ、セルゲイ、アレクサンドラは瞬時に呪文を唱えて床から飛び立っていきました。正しい判断です。
私はガジュマロとイツキと共にレイチェルの操作するかなり荒い床で入口へ戻りました。なんだか……少し気分が悪くなってきました。ぐわんぐわんします。
鍵は、ガジュマロの手によって鎖から外されました。一番最初の部屋の左右どちらかの鍵でしょう。
シャッター状のドアを再び開けて、最初の部屋へ戻ります。
今のところ順調ですね。
――二日目・朝の九時半過ぎ
実習はまだ続く。本当、まだまだ続く。
be continued